山田洋次監督作『下町の太陽』は“人間の幸せとは何か”を問う青春ドラマ
Ⓒ1963松竹株式会社

映画誕生の年である1895年に創業し、1920年に松竹キネマとして映画産業に進出した「松竹」。
今年100周年を迎えた松竹では、これまでの軌跡を振り返る各種記念イベントが行われている。
ということで、今回は松竹の看板映画である「男はつらいよ」シリーズほか数々の名作映画を手掛け、今なお松竹を牽引する名匠・山田洋次にフォーカス。
監督の初期作品である『下町の太陽』(1963年)を紹介しよう。

倍賞千恵子が歌う大ヒット曲を基に映画化

松竹音楽舞踏学校卒業、松竹歌劇団(SKD)入団という経歴を持つ倍賞千恵子。
歌手デビューとなった「下町の太陽」は当時大ヒットを記録し、第4回日本レコード大賞新人賞を受賞している。
本作はブームとなったこの曲をモチーフに製作された同タイトルの映画化作品だ。
そのまま主題歌として採用された「下町の太陽」を倍賞が歌っているのはもちろんのこと、ヒロイン・町子も演じている。
またこの作品での出会いをきっかけに、倍賞は『家族』(1970年)や『幸せの黄色いハンカチ』(1977年)、「男はつらいよ」シリーズなど、約60年にわたり山田作品の常連女優に。

化粧品工場で働くヒロインは上昇志向の強い恋人に疑問を感じ…

化粧品工場で働く寺島町子(倍賞千恵子)は、母の亡き後、東京の下町で父、祖母、弟・健二(柳沢譲二)と暮らしている。
そんな折、健二が警察沙汰を引き起こし、町子は丸の内のサラリーマンになることを夢見る恋人・道男(早川保)に相談するが、正社員登用試験の勉強に忙しいと断られてしまう。
困った道子は健二と親交があるという鉄工所の工員・良介(勝呂誉)を訪ねるが、それまでは素行が悪いと思っていた彼がひたむきに働く姿に感動する。
そして、道男の正社員登用試験の結果が発表されて…。

お茶の間に笑顔と人情を届ける「松竹映画」の醍醐味を本作で堪能

『砂の器』(1974年)、『八つ墓村』(1977年)で知られる野村芳太郎らの助監督を務めていた山田監督が、監督デビュー作となった『二階の他人』(1961年)に続いて二作目に手掛けたのが本作だ。
高度成長期を迎えた日本で物質主義が若者たちの思考を無味乾燥にしていく中、人間の幸せの本質を見極めようとするヒロインの力強い生き様を活写している。
蒲田撮影所時代の流れを汲み、“救い”を命題とする「松竹大船調」を継承する監督ならではの、心に染みる人情ドラマを堪能して欲しい。

衛星劇場

2020年11月12日(木)18:00~19:30
2020年11月20日(金)9:15~10:45
2020年11月28日(土)17:00~18:30

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