戸田奈津子のスターこのひとこと:Pick Up Movie『ストレイ・ドッグ』
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ストレイ・ドッグ

2020年10月23日(金) TOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開
配給:キノフィルムズ 提供:木下グループ

【STORY】LA市警のエリン・ベル刑事はある日、市警宛てに届いた差出人不明の私信を受け取る。手紙に入っていたのは紫に染まった紙幣。早速、照合すると…。

このコーナーでは、字幕翻訳家の戸田奈津子さんが最新映画のセリフから、「生きた英語」を学ぶヒントをピックアップしていきます。

 ハリウッドのスター女優として、美貌も演技力も天下一品のニコール・キッドマン。ところが本作では身も心もすさみきった<Stray Dog=野良犬>のような女刑事エリン・ベルになりきっていて、あまりに汚れた容貌に「本当に、これがニコール?」と疑ったほどです。彼女が演じるFBI捜査官だったエリンは、かつて銀行強盗事件の潜入捜査で犯した過ちを引きずりながらもなんとか生きてきたのですが、17年後のいま、過去に決着をつける時が来た! という展開。いわゆる“フィルム・ノワール”というジャンルで、監督は『ガールファイト』(’00年)で注目を集めたカリン・クサマ。個性的な作風に評価を得ていますが、決してメインストリームの監督ではありません。でも、この脚本に惚れ込んだニコールが参加することで映画化が実現。スターである自分の名声を有効利用して、インディペンデントな監督たちに貢献するニコールの志。いいですねぇ。
 まずは、ロサンゼルス市警の刑事になっていたエリンの前に差出人不明の謎のメッセージが届く。そこでエリンは躍起になって差出人を追うが、なかなか見つからない。そんな彼女に上司が言うセリフ。

You’re barking up the wrong tree.

君は間違った木に吠えているんだよ。

 これは、獲物の潜んでいない間違った木に猟犬が吠えついている様子から出た表現。つまり「見当違いをしている」という意味で、そういうシチュエーションの時にはよく使われます。
 次に、学校ではまず教えてくれないけれど、日常的に絶対に必要なネイティブ・フレーズも。エリンには別れた夫との間に16歳の娘シェルビーがいるのですが、その娘が学校に行かずに遊び歩いていることをとがめると。

We were just hanging out at this club.

仲間とそのクラブでツルんでいるだけよ。

 <hang out>は、日本語に訳すと「時を過ごす」「たむろする」。<hang>というと「つるす」のイメージが強いので、日本人にはピンとこないから、ちょっと使いにくいですね。例文は、<Do you want to hang out tonight(今夜、付き合わない? 今夜、遊ばないか?)>とか、<Let’ s hung out!(一緒に楽しくやろうぜ!)>。ちなみに、すさんだ刑事と犯罪者の攻防戦を描いているので、当然のごとく汚い言葉の応酬。皆さんは真似しないように(笑)。そんな中で、捜査で訪ねてきたエリンに、そこの主人が言うセリフ。

You want an iced tea, or something?

アイスコーヒーか、何か飲むかね?

 <ice tea>ではなく<iced tea>であることに注意。日本人はつい「アイスコーヒー」と言ってしまい、それでも通じるのですが、正しくは「iced tea」「iced coffee」。こういう細かいところを正しく言うと「教養がある」と、リスペクトされますよ。
 ニコールに会ったのは『遥かなる大地へ』(’92年)で共演したトム・クルーズと共に初来日をしたとき。’90年に結婚した2人はまだまだ新婚ムードで、しばしば熱い視線を交わしあっていました。当時のニコールは、スラリとした抜群のスタイルでシミひとつない陶器のような美肌。性格は、どちらかといえば男っぽくてサバサバした感じでした。その後、3度目の夫婦共演を果たした『アイズ ワイド シャット』(’99年)で再び来日。敬愛するスタンリー・キューブリック監督の作品に揃って出演できたことの喜びを夫唱婦随で仲良く、熱っぽく語っていました。まぁ、その数年後に離婚をしてしまったのですが…。ニコールについては、とにかく宝石のように輝く美しさをキープしていることと、“トム・クルーズの妻”の形容詞を外してからの女優としての目覚ましい成長に、驚くばかりです。

▽伝説の監督スタンリー・キューブリックの遺作

『アイズ ワイド シャット』より

結婚9年目を迎えた内科医のビルは、妻のアリスから旅行中に出会った男に性的欲望を感じたと告白をされて衝撃を受ける。以来、妻が浮気をする妄想に憑かれ街をさまよい歩く。セリフは、パーティに出かける前に夫が妻に。

Bill:Honey, have you seen my wallet?

ハニー、ぼくのさいふ、見なかった?
Point

<a wallet>は、日本で言ういわゆる「札入れ」のこと。辞書を引くと「さいふ」として<a purse>が出ていますが、これは実際には女性の「ハンドバッグ」を示し、<a handbag>という言い方より<purse>のほうが一般的です。

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